中頓別町では、昨年8月からライドシェア実証実験に取り組んでいます。

昨年度の取り組みは、配車のしくみにUBERのアプリを活用し、ボランティアドライバーによる無償運行という形で実施。利用は214回で、2,435kmを走りました。人口が現在約1,770人の中頓別町で、しかも、これまでどこもやったことがないような取り組みとしてはよく走ったなと率直に感じています。

 この事業がここまでできたのは、なんといってもボランティアドライバーのみなさんのおかげです。当初、一番の不安はドライバーの確保でした。しかし、蓋を開けてみると16名ものドライバーが手をあげて参加してくれました。2年目は、燃料代等の実費を利用者に負担していただくスタイルに移行していますが、ほぼ順調にスタートを切りました。これもやはりドライバーのみなさんのおかげに他なりません。

 なかとんべつライドシェアは、共助、地域の住民どうしの支え合い・分かち合いを広げていく取り組みでもあります。ライドシェアだけでなく、他の取り組みを含めた新しい可能性を広げるための実証実験と考えています。

なぜ、ライドシェアなの? と、よく聞かれます。

 一昨年、私が町長に就任したとき、中頓別を経由し稚内と音威子府を結ぶ路線バスの見直しがほぼ決まっていました。沿線市町村などが参加する地域公共交通会議がまとめたもので、中頓別から音威子府までの区間の路線が廃止され、乗合タクシーに移行するというものでした。中頓別だけでなく、浜頓別町、猿払村の方も含めて音威子府まで行く場合はこの乗合タクシーを利用するということでした。

 この案は、結果的には実現しませんでした。乗合タクシーの運行費経費が予想以上に大きく、かえって関係町村の負担が大きくなることがわかったからです。このことの是非はともかくとして、平成元年にJR天北線の廃止を経験した町が、その後30年も経たずに今度は代替輸送手段であるバス路線もなくなる、という事態に直面したことになります。

 私が、地域公共交通の問題を最重要課題と考えるのは、このとき受けたショックが大きかったからとも言えます。このまま手をこまねいているわけにはいかないことを強く感じました。しかし、路線バスの見直しを再度やり直すことは容易ではありません。これまでの常識にとらわれずに新しいしくみを考えていく必要があるのではないか。そんな中で出会ったのがUBERであり、ライドシェアでした。

 町は、天北線バスの運行のために大きな経費負担が続きます。そもそも天北線バスは、JRの路線廃止の際に交付された転換交付金を基金化し、その果実で長期間運行を持続できるとされていました。しかし、低金利の長期化と予想以上の利用者減に直面し、基金の取り崩しが続いていました。当初5億6千万円ほどあった基金は、3億円あまりまで減りました。このため、平成24年度からはバス路線維持のための経費は一般財源から資金を充当していますが、この間の支出は8千万円近くにもなります。このほか、通学バス定期運賃補助、福祉ハイヤー利用助成、バスの町内無料乗車券、病院患者送迎などの事業に取り組んでいますが、路線バスの維持にこれらの経費を合わせると町が地域公共交通のために毎年約3千万円の負担をしていることになります。

 これ以上、負担を増やすことは難しいなかで、対策を考えていかなければなりません。このことからも、ライドシェアという新しいしくみの可能性に取り組んでみたいという思いがありました。

なかとんべつライドシェアの目指すところ

 最初の方でも述べていますが、これはライドシェアで交通の課題解決するだけでなく、「支え合い・分かち合い」のしくみからコミュニティに一石を投じ、地域再生への歩みを一歩前進させるための実証実験でもあるわけです。共助、住民同士が支え合う、分かち合う地域づくり、これを通して地域の人々が住みやすさを実感し、いつまでも住んでいたいと思ってもらえる町にしていこうという思いを込めた先導的事業だと考えています。

 おおげさなことではなく、「共助」「支え合い・分かち合い」は昔から地域で根付いている暮らしの文化です。お隣同士で醤油や砂糖を貸し借りしたり、若者が近所のお年寄りのために一汗流したりすることは当たり前に行われていたことです。しかし、こんな田舎町であっても、そうしたことが薄れてきていることは確かだと思います。このことが良いとか悪いとかということではありませんが、高齢化が進み、独居や高齢者だけの世帯が増えるとともに若い世代が著しく減少したコミュニティの中にあって、公助(行政サービス)だけでは安心して心豊かに暮らしていくことを支えられなくなっています。

 ドライバーの募集に16名の町民が手をあげて参加してくださいました。ここに大きな可能性を感じています。高齢者のためだけではなく、子ども・子育てでも同じです。ライドシェア事業とほぼ同時期にファミリー・サポート・センター事業もスタートしていますが、こちらにも11名の町民が提供会員として登録してくださいました。どちらも利用実績が上がっていくためにはこれからの運用が大事ですが、こうして芽生えた可能性を広げていくことが地域再生へとつながっていくと思っています。

 先のシェアリング協議会では、ライドシェア事業のほかに、ファミリー・サポート・センター事業の普及・充実、屋根の雪下ろし作業の担い手、民泊の普及、空きスペースの活用、モノのシェアなどについて検討し、地域にある社会資源をシェア(支え合い・分かち合い)していく可能性を模索していくことを決めています。

 なかとんべつライドシェアは、2年目の実証実験に進んでいます。実証実験から本格的な運行に移行できる道筋をつけていけるかどうかが重要ですが、もうひとつ、共助のしくみづくり、支え合い・分かち合う地域づくりへの広がりを町民のみなさんにより理解していただけるように取り組んでいきたいと思います。たくさんの町民のみなさんがこの社会実験に参加していただけることを期待しています。